軽減税率制度開始に伴う 簡易課税制度の届出の特例と事業区分の改正
私は個人で農業を営んでおり、栽培した農産物(食品) を市場へ出荷する他、観光果樹園を併設して行う次の収入もあり、年商は毎年2,000万円程度です。
・その場でもぎ取り食べてもらう入園料の収受
・お土産用の個別販売
ところで、消費税率が8%と10%の複数となる今年10月から、税率ごとに経理しないといけないと聞きました。しかし、家族経営のため事務に人員がさけません。そこで、消費税の納税計算について、簡易課税制度の適用を考えています。
簡易課税制度の適用にあたり、何か注意すべきことはありますか?
このような複数税率となることから、原則、税率ごとに区分して経理することが求められます。
この軽減税率制度開始や区分経理に伴い、簡易課税制度は大きく2点改正がされました。適用の際は、その点をご注意ください。
目次
1.簡易課税制度とは
消費税の納付税額は、課税期間(原則、個人は暦年、法人は事業年度)ごとに、次の算式により計算します。
この算式のうち右側の“課税仕入れに係る消費税額”について、基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、一定の届出書を期限内に提出することで、実際の課税仕入れから計算するのではなく、算式左側の“課税売上げに係る消費税額”をベースとした、次の算式により計算ができます。
この“みなし仕入率”とは、課税売上げを次の6つの事業に区分し、その事業区分ごとに設定された率です。
第一種事業(卸売業) 90%
第二種事業(小売業) 80%
第三種事業(製造業等) 70%
第四種事業(その他の事業) 60%
第五種事業(サービス業等) 50%
第六種事業(不動産業) 40%
このように、課税売上げのみを把握していれば、消費税の納付税額を計算できるのが、簡易課税制度です。ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間には適用できない他、原則、2年間は適用しなければなりません。
2.改正その① 届出の期限の特例
簡易課税制度の適用を受ける場合には、原則、適用しようとする課税期間開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」(以下、届出書)を所轄の税務署長へ提出します。
この届出書の提出期限について、軽減税率制度開始に伴い、主に次の特例が設けられました。
対象事業者:
課税仕入れ等を税率の異なるごとに区分することについて困難※な事情がある基準期間の課税売上高が5,000万円以下である中小事業者 (※)困難の度合いは問われません。
主な特例の内容:届出書を提出した課税期間から簡易課税制度を適用することができる
適用対象期間:
令和元年10月1⽇から令和2年9月30⽇までの⽇の属する課税期間(提出は、令和元年7月1⽇から可能)
3.改正その② みなし仕入率の改正
軽減税率制度の開始により、令和元年10月1日以後の取引から、第三種事業に該当する製造業等のうち、農業・林業・漁業のいずれかが行う、軽減税率制度が適用される取引は、これまで第三種事業であったものが第二種事業として、みなし仕入率80%が適用されます。
対象事業:農業、林業、漁業
みなし仕⼊率[改正]:
①対象範囲 消費税の軽減税率が適用される飲⾷料品の譲渡に係る事業区分
②みなし仕入率 第三種事業(70%)→第二種事業(80%)
適用日:令和元年10月1⽇以後の取引
4.ご相談のケース
(1)届出書の提出期限
ご相談のケースは個人のため、課税期間を原則の暦年と仮定した場合の、簡易課税制度の適用を開始する課税期間に応じた届出書の提出期限は、それぞれ次のとおりとなります。
(2)みなし仕入率の改正
ご相談のケースは農業であることから、令和元年10月1日以後は、先述のみなし仕入率の改正の影響を受けます。収入の内訳ごとに適用するみなし仕入率を、次に例示しました。 適用するみなし仕入率を誤らないよう、ご注意ください。
特に届出の期限の特例は、対象事業者であれば業種は問いません。期間は短いものの、対象となる課税期間内に適用すべきか否かを検討できることが最大のメリットです。ただし、簡易課税制度の適用はデメリットもあります。慎重な判断が求められることから、適用を検討される際には、必ず当事務所までご相談ください。